前稿までは、引き継ぐべきものの本質について検討して参りました。今回からは事業“昇慶”のための親子の『覚悟』『肚括り』について考えてみたいと思います。今回は“譲る”側からアプローチします。
【譲る者の使命とは】
「うちの息子は、経営者に向いているでしょうか?」―。よくお伺いする質問ですが、私には愚問に思えてなりません。そもそも最初から経営者に向いている人間などいません。ただ、その人に合った経営の仕方があるだけです。
また、経営者といえども万能ではありません。営業・生産・開発・人事・財務・流通・情報などなど、企業経営に必要な全ての機能をパーフェクトに身につけている人など、この世に存在しません。できる事が少ないならば、不足する部分を補ってくれるパートナーを必要なだけ作る、もっと力をつけたいことがあれば、ブラッシュアップしてくれる師匠を見つける、ただそれだけの話です。
大切なのは「何ができて、何ができないかをきちんと見極めること」です。そして「その時々において今何をなすべきかを明確にした上で、そのことに精一杯の時間と努力を注ぐこと」です。これこそが優秀な経営者の唯一の条件なのです。
「経営者に向く、向かない、はない」とすれば、何が大切か?それは、経営者になる“肚を決める”ことしかありません。そして、「後継者に、その“覚悟”を、あらゆる手段を講じて持たせること」こそが、経営者としての使命なのです。その使命が全うできないのであれば、残された道は、身売りか廃業か、ということになるでしょう。
経営者の息子はまずその時点で、財・智・縁などあらゆる場面において、サラリーマン家庭では決してできない経験をさせてもらっています。もちろんサラリーマンの息子のように、長期休暇のたびに親と一緒に遊びに行った経験は持てなかったかもしれません。でもそれ以上に経営者の息子は良い経験をさせてもらっています。
前にもお話しした通り、私の実家は商売を営んでいます。私も社長の息子です。そして今はサラリーマン。自分が子供の頃に経験してきたことと、自分の子供たちが経験していることを改めて比較してつくづく感じていることです。
私の親もそうですが、一緒に遊んでやれなかったことや、旅行などに連れて行ってやれなかったことが負い目になっていることが多いようです。しかし私は、それを申し訳ないと思う必要はないと思います。逆に「経営者の息子でなければ経験できないことを経験させてやっている」というくらいの自信を持って欲しいと思うのです。
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